『禅苑清規(ぜんねんしんぎ)』に云(い)う。「須(すべか)らく道心(どうしん)を運(めぐ)らして、時(とき)に随(したが)って改変(かいへん)し、大衆(だいしゅ)をして受用(じゅよう)し安楽(あんらく)ならしむべし」と。昔日(せきじつ)、潙山(いざん)・洞山(どうざん)等之(らこ)れを勤(つと)め、其(そ)の余(よ)の諸大師(しょだいし)も、曾(かつ)て経来(へきた)れるなり。世俗(せぞく)の食厨子(しょくずし)、及(およ)び饌夫等(せんぷら)に同(おな)じからざる所以(ゆえん)の者(もの)か。
山僧(さんぞう)、宋(そう)に在(あ)りし時(とき)、暇日(かじつ)に、前資勤旧等(ぜんしごんきゅうら)に咨問(しもん)するに、彼等聊(かれらいささ)か見聞(けんもん)を挙(あ)げて、以(もっ)て山僧(さんぞう)の為(ため)に説(と)く。此(こ)の説似(せつじ)は、古来有道(こらいうどう)の仏祖(ぶっそ)の遺(のこ)せし所(ところ)の骨髄(こつずい)なり。大抵(たいてい)は須(すべか)らく『禅苑清規(ぜんねんしんぎ)』を熟見(じゅくけん)すべし。然(しか)る後に、須(すべか)らく勤旧(ごんきゅう)の子細(しさい)の説(せつ)を聞(き)くべし。
典座教訓・赴粥飯法 道元 全訳注 中村璋八・石川力山・中村信幸 講談社学術文庫
テキストの漢字ルビはカッコ書きで表記した。全訳注者の注釈に、前資は先輩の僧、勤旧は長いあいだ禅の修行道場にあって、さまざまな役職を勤めてきた経験者とある。
食べる人の事を良く考えて、また時期や条件により最善を尽くし、みんなが楽しく食べられるようにしなさいということである。今日のように季節を通じて作物が栽培され、冷凍冷蔵技術が発達せず、物流も都会を中心としたものに限られていたころは、同じ食材を毎日のように頂いたものであり、半ば自給自足ともみえた。このころの献立作りは大変創意と工夫を要したものと思われる。